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研究室概要

研究内容

比較文明学研究室は、大阪大学人間科学部/人間科学研究科にあります。哲学の研究室が三つ集まって構成されている「現代人間学」グループの一つです。

西洋哲学の近代から現代にかけての資産を基盤に、社会理論、精神分析、表象文化論の手法を取り込んだ文明論的な射程をもつ哲学の構築に取り組んでいます。

二〇世紀ドイツ現代思想を代表するフランクフルト学派は、ドイツ観念論の哲学、フロイトの精神分析、マルクスの社会理論、現代文化についての理論を融合し、西洋に発生し地球を覆う普遍的なシステムとなった近代文明の性質を分析する学際的な理論を展開しました。比較文明学研究室は、その学際的手法のスピリットを継承しつつ、構成要素の理論の一つ一つを最新のものに置換し、リニューアルします。今日、新しい文明論の哲学の軸として、ヘーゲル、マルクス、ラカン、デリダらの思想を用いることができると考えています。

現代におけるフランクフルト学派の後継者としては、SF文学に現れるユートピア表象から社会における根源的矛盾に遡行する分析手法を提唱するフレドリック・ジェイムソンに注目することができます。またさらにジェイムソンの思想を継承発展させ、ヘーゲルとラカンの現代的融合をはかるスラヴォイ・ジジェクも注目すべき存在です。研究室ではこうした現代の思想潮流にも目を配りながら、高度資本主義社会の一つの典型である日本という場でこそ可能な、文明社会と人類の未来についての思考を展開することを目指します。

フレドリック・ジェイムソン
『未来の考古学——ユートピアという名の欲望』秦邦生訳、作品社、2011年

フレドリック・ジェイムソンは、文化表象を「現実における解決不可能な矛盾に対する想像的な解決」として解析することができると述べています。つまり私たちがどのような物語を生み出すかを見ることによって、私たちが社会構造の深層レベルでどのような矛盾を経験しているかを捉えることができるというわけです。たとえば映画『シン・ゴジラ』(庵野秀明・樋口真嗣監督、2016年)では、日本社会が危機に面したときに、突如使命感に「目覚め」て日本を救うために立ち上がる若き官僚・政治家たちの活躍が描かれます。こうした物語構造は、戦後日本の文学においてはSF作家の小松左京が得意とした手法です(「地には平和を」『日本沈没』『首都消失』など)。日本喪失の危機を想定することで「日本」というものを捉え直そうとする欲望がそこには見られます。敗北する太平洋戦争という歴史的事件の構造を、そのさなかにあってむしろ把握できず、陸海軍も政治家も官僚も企業も国民もついに「目覚める」ことなく終わってしまったことへの後悔。もしそれを先取りできていたら、あるいは今度こそ先取りできないか、と夢想する空想力が、こうした日本列島の危機と、目覚めてそれに立ち向かう日本人たち、というフィクションを生みだします。つまりそれは〈目覚めることへの夢想〉だと言えます。『シン・ゴジラ』の作り手と受け手とが生産し消費する白昼夢は、私たちのどのような無意識的な経験を反映しているのでしょうか。

研究室では、中期的な研究テーマとして「構想力と文明」を掲げ、その基盤を構築するためのプロジェクトとして次の四つを進めています。

「構想力と文明」プロジェクト群

  1. 哲学的アプローチ →ドイツ観念論から現代思想における構想力概念の再検討
  2. 社会理論的アプローチ→マルクス理論の現代的再解釈(構想力の政治としての資本主義)
  3. 精神分析的アプローチ→自閉症の学際的研究を通した定型発達的構想力の研究
  4. 表象文化論的アプローチ→戦後日本社会におけるユートピア表象をめぐる構想力の研究

論文、書籍執筆のほか、科研費/競争的資金による研究会、ワークショップ、シンポジウム等の開催を行なっています。詳しくは、研究プロジェクトをご覧ください。

研究室の歴史

比較文明学講座/研究室は、大阪大学人間科学部の設立に中心的な役割を果たした徳永恂教授が、初代教授として人間科学基礎論講座と兼任で担当しました。その後、三島憲一教授、ヴォルフガング・シュヴェントカー教授が継承し、多くの優秀な人材を輩出してきました。フランクフルト学派研究やマックス・ウェーバー研究の伝統を持ちます。研究室出身の研究者には、時安邦治、細見和之、長澤麻子、宮本真也などがいます。2019年4月より野尻英一が研究室の主任となりました。

大阪大学人間科学研究科/人間科学部 比較文明学研究室
〒565-0871 大阪府吹田市山田丘1番2号 E-mail
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比較文明学研究室

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